翻訳という作業の全体性を認めない動き

2011.07.29

翻訳という作業の全体性を認めない動きには分業化以外に、たとえば翻訳の「品質管理」の動きがある。翻訳の「品質管理」の要求は、たいてい、一点に集約される。「原文に忠実に訳す」という一点である。原文の何に忠実に訳すかは語られていない。この動詞はかならず「提供する」と訳さなければならない・この代名詞はかならず「あなた」と訳さなくてはならない。この構文はかならず何々と訳さなければならない。このような指定に従うのが、「原文に忠実に訳す」ことだと考えられている。実際には出来の悪い単語帳と、出来の悪い入試用文法書に忠実に従うよう強いるだけであり、その結果、原文の内容を裏切り、原文の意味を裏切り、原著者の意図を裏切り、日本語の論理を裏切り、日本語の生理を裏切り、読者(ユーザー)の要求を裏切り、期待を裏切り、製品(たとえばソフト)を使いにくくし、売りにくくするだけになる。原文で原著者が伝えようとしたことを忠実に伝えようとするなら、出来の悪いものであれ良いものであれ、辞書や文法書の奴隷になるわけにはいかないのだが、この点がまったく理解されていない。辞書の奴隷になれば、翻訳はできなくなる。文法書の奴隷になれば、翻訳はできなくなる。この点が、まったく理解されていない。